◇遺産復興応援ブログ:第5回 中国における“考古学ブーム”の到来で期待される世界文化遺産の人災被害に対する若き考古学者の存在3(最終話)
中国は、今や経済の改革開放政策によって米国に次ぐ世界第二位の経済大国となり、地方と都市間の格差はあるものの人々の生活様式は向上し、消費の関心は物的な必需品要求型から質的な文化欲求型の生活へと変わりつつある。今日の世界遺産に対する観光ブームもそうした変化から起こっている現象と言える。しかし、中国における近年の大規模な観光開発による爆発的な観光ブームは、一方で人々の世界遺産に対する認識不足やマナーの悪さによる人災被害の危機を招きつつあり、「敦煌・莫高窟」を始め、一部では「危機遺産にさらされている世界遺産リスト」への登録を恐れて世界文化遺産への入域制限をする処置などが取られている。*7
中国は、“悠久の歴史”とともに紀元前からの“盗掘の歴史”としても知られ、最近も1918年に世界遺産の「殷墟」を舞台にした盗掘団が摘発され、盗品七百点が回収された。盗掘された文物の多くは密売組織によって密輸され、世界的な競売に駆けられてニュースになるケースも見られる。こうした海外に流失した文化財の返還活動も大きな話題となっており、2019年秋に北京で六百点余りを集めた「回帰の道―返還活動70年の歩み」展が開催され、盗掘文物に興味のある大勢の見学者が押しかけた。*8
別途、2016年に故宮博物院での文化財修復をテーマにしたCCTVのドキュメンタリー番組「我在故宮修文物」が数回にわたって放映され、放送後も映画化されて、ネット上で若者を中心に好評を博しており、“博物館ブーム”の火付け役になったとも言われている。*9
一方、世界文化遺産登録の“先兵役”としての考古学が一般の人々の間で注目をされるようになったのは、「良渚古城遺跡」や「二里頭夏都遺跡」などの先史遺跡の発掘によって 中国五千年の“悠久の歴史”が騒がれ始めた比較的最近のこと。“悠久の歴史”に魅かれた人々の関心が、それまでの世界遺産ブームに乗じた物見遊山的な“観光”から、徐々に遺跡の資料・情報の集積や文物の展示によって人類共有の遺産を次世代に伝える役割としての “博物館”へと向かいつつあり、博物館ブームに拍車がかかっている模様。
周辺一帯で大規模な文化公園造りが進む山東省「滕州大韩墓地」の発掘現場(2018年) (by Koriyama)
そのような状況の下、三星堆遺跡の「黄金仮面」が発見されたことにより、一気に若者の間で“考古学ブーム”が起こりつつある。また、各省の“遺跡発掘競争”による歴史を塗り替えるような遺跡の相次ぐ発見・発掘は、世界中の話題となり、中国内で開催される考古学の国際会議には世界中の著名な考古学者が参集して活発な議論が交わす様子が度々ニュースでも流れており、世界の考古学界をリードする中国考古学界の活躍ぶりが若者の考古学に対する関心を一層高めていると言える。*10
中国考古学界では、こうした空前の考古学ブームを背景として、考古学に関心・興味を持った若者達が一人でも多く大学で考古学を専攻し、近い将来の中国考古学界を担う人材として活躍することに大きな期待を寄せる。人々の世界遺産に対する認識やマナーの改善にはそれなりの年月がかかるが、彼らが若い考古学者の使命として、世界文化遺産を脅かす人災被害問題に真剣に取り組み、世界遺産の重要性と保護・保全の意義を積極的に発信するようになれば、人々の世界遺産に対する認識も徐々に深まり、マナー改善に繋がっていくと、考古学愛好者の一人として信じて止まない。
これまで比較的年配の考古学者を中心に世界文化遺産の新規登録や保存・修復に貢献してきた中国の考古学が、近年の歴史を塗り替えるような遺跡の発見・発掘によって、多くの若者の関心を集め、改めて世界文化遺産に対する人災被害の危機を救う救世主となることに期待したい。(最終回)
(T.Koriyama)
【参考】
*7「Record China」2007年9月4日掲載
「世界遺産を守れ!敦煌莫高窟、来年より入場制限開始―甘粛省敦煌市」
*8「人民網日本語版」2019年9月19日
*9「人民網日本語版」2017年12月7日
*10「CGTN日本」2021年6月13日