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■ 研究員ブログ52 ■ 知ってから行きましょう富岡製糸場。世界遺産へ大きな一歩!

急にぽかぽかした日々が続いていますね。
そんな陽気と共に、4/26未明、
ICOMOSから「富岡製糸場と絹産業遺産群」への「登録」勧告が届きました。

登録勧告は、4段階の勧告の中で最もよいもので、
6/15から開催される世界遺産委員会では、
おそらく、無事に世界遺産登録! というコトになると思います。

◆ 富岡製糸場は地味な遺産!?

今回の登録勧告を受けて富岡製糸場を見たとき、
「地味だよね」という印象をもった人も多いようです。

確かに昨年登録された富士山のような強烈な印象はありません。
これは最近の世界遺産の傾向でもあります。

世界遺産が多く登録されはじめた1980年代頃に登録された遺産は、
『ヴェルサイユ宮殿と庭園』や『マチュ・ピチュ』など、
有名な遺産や既に人気の観光地になっているものも多く、
世界遺産としてのインパクトもありました。

そうした遺産は、登録基準(i)「人類の傑作」や
登録基準(vii)「自然の景観美」などが認められ、
一目見て、その価値がわかるものでした。

しかし、有名な遺産の多くは既に世界遺産登録され、
近年では、ぱっと見た感じ地味でも、「よく知るとすごい!」という遺産が
登録されるようになってきています。

富岡製糸場などはまさにそのタイプです。

◆ 富岡製糸場は近代日本の原点

■ 研究員ブログ51 ■ 世界遺産の富岡製糸場へ!」でも書きましたが、
富岡製糸場は、経済大国となった近代日本の原点となる遺産です。

鎖国によって近代化が大きく遅れた日本が、
明治政府によって力ずくで近代化を遂げた起点が富岡製糸場なのです。

官営工場として製糸工場が作られただけでなく、
富岡製糸場で働く工女が地元に戻って製糸技術を教えることで、
国家の隅々にまで近代化が行きわたります。
富岡製糸場は、日本の国家戦略そのものであったとも言えます。

日本で作られた製糸が世界の産業や経済に大きな影響を与え、
日本は製糸業で得た資金を基に近代工業化を進めました。
そこに関係するのが2015年に審議される「明治日本の産業革命遺産」です。

今年の「富岡製糸場と絹産業遺産群」と
来年の「明治日本の産業革命遺産」はセットで考えると
わかりやすいと思います。

◆ 作られたままの姿で残っている富岡製糸場

富岡製糸場が今回「登録」勧告を受けることができた大きな要因として、
作られた当時の工場などが、そのままの姿で残っている、という点があります。

昨年、「武家の古都・鎌倉」が「不登録」勧告を受けた際に、
鎌倉幕府時代の建造物が残っていない、という指摘がありました。

世界遺産は不動産を保護する法律であるため、
やはり建造物が残っていないというのは致命的です。

その点、富岡製糸場や高山社跡、田島弥平旧宅などが残っている、
というのが、すごく有利に働いたと考えられます。

◆ ほぼ満点の評価

今回のICOMOSの評価を見てみると、
ほぼ満点の評価であることがわかります。

群馬県や富岡製糸場、文化庁などの関係者の努力が実った結果だと思います。

登録基準も2つとも認められ、保護・保全についても概ね問題はなく、
個々の資産同士の保全上の横のつながりを強化すべきとだけありました。
資産に影響を与える要因にしても、
どの資産でも指摘されることの多い
「周辺地域の都市化」や「地震や台風などの自然災害」でした。

他にも女工たちの労働環境・社会状況などのよりつっこんだ調査の必要性や、
荒船風穴の保全方法の再考などの指摘もありましたが、
どちらも世界遺産委員会までに、対応可能なものです。

前回の富士山のときに比べると、
リラックスして世界遺産委員会を迎えることができそうです。

◆ 世界遺産登録は6/20頃?

今年の世界遺産委員会は、6/15~6/25まで、
カタールのドーハで開催されます。

まず危機遺産について審議されたあと、
自然遺産、文化遺産の順番で審議されるので、
「富岡製糸場と絹産業遺産群」が審議されるのは、
恐らく6/20頃だと思います。

ここからは、観光対策も含めて
(増える観光客対策と、魅力ある観光地化対策)、
準備をしていってもらいたいと思います。

一方で、「学んでから訪れる」というのが
世界遺産の魅力の味わい方ですから、
観光客である僕らも、
しっかり準備してから訪れたいものです。