■ 研究員ブログ112 ■ 世界遺産に一歩前進、だけど。……奄美・琉球
今日(1/19)の午後、世界遺産条約関係省庁連絡会議があって、
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の推薦が決まりました。
このあと閣議了解を経て、今月末までに推薦書が提出されます。
2018年の世界遺産登録に向けて一歩前進です。
自然遺産の候補は久々なので楽しみ……なのですが、
なんだかちょっと、すっきりしないものを感じています。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は
昨年の推薦書取り下げから
なんとか一年で推薦書を整備しなおしここにいるわけですから、
応援する気持ちしかないわけです。
それに対して、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、
もちろん世界遺産登録を目指す人々の熱意は感じていますし、
ぜひ世界遺産になって守っていってもらいたいと心から思っているのですが、
どこかで、「今回の推薦はちょっと強引じゃないの?」とも思ってしまうのです。
普通は、正式な推薦書の提出期限である2月1日の半年ほど前に開かれる
世界遺産条約関係省庁連絡会議で推薦が決まり、
そこから仮の推薦書をユネスコの世界遺産センターに提出し、
その後、正式な推薦書の提出直前に閣議了解を経て、
正式な推薦書の提出を行います。
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」も当然、
その手順に従って推薦書提出の準備が行われてきました。
しかし、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」は、
環境省が推薦を進めているとの報道はあったものの、
世界遺産条約関係省庁連絡会議で推薦が決まったのは、
正式な推薦書提出のたった2週間前です。
自然遺産は、好きなスケジュールで動いてよいなんてことはなく、
同じ手順を踏んで推薦されるべきものです。
もちろん環境省も世界遺産条約関係省庁連絡会議のメンバーです。
ここまで強引に推薦が決まると、
何か裏があるのではないか? なんて勘ぐってしまいます。
その勘ぐってしまいたくなる理由のひとつが、
18日に菅官房長官が沖縄県国頭村と東村の両村長に面会し、
「今週中にも世界遺産への推薦を決定する」と伝えたという報道です。
内閣官房も世界遺産条約関係省庁連絡会議のメンバーなのでよいのですが、
でも会議に先立って、総理大臣に次ぐ内閣の顔ともいえる官房長官が、
「世界遺産へ推薦しますよ」と明言するのは、
世界遺産登録が内閣の内政のカードのひとつになっているように見えてしまいます。
報道によると、菅官房長官は
「沖縄の振興のために全力で取り組む」と強調したともありますし、
「自然保護」よりも「内閣からの地域振興のカード」としての意味合いの方が、
今回の世界遺産登録には強いように感じてしまうのです。
米軍から返還された北部訓練場の跡地もいずれ世界遺産に含めたい、
と語ったなんて報道を見ていると尚更です。
菅官房長官のリップサービス的な側面もあるとは思いますが。
ただ、強引に推薦を進めた理由としてもうひとつ考えられるのは、
現在、ひとつの国から2件推薦できる世界遺産候補が、
2018年に推薦する遺産からは1件に減らされるため、
ライバルのいない今年のうちに推薦してしまおう、というもの。
まぁ、こちらが大きな理由でしょうね、きっと。
理由はどうあれ、国が本気になって動いたおかげで、
国立公園化が急ピッチで進められ、
自然保護の体制が整ったわけですから、
決して悪いことではありません。
内閣のリーダーシップがあってこそです。
推薦が正式に決まったからには、
今後は登録に向けて応援していきたいと思います。
何も力になれない自分の非力さが残念ですが。