◇遺産復興応援ブログ:第6回 東京都内唯一の世界文化遺産「国立西洋美術館本館」が、 コルビュジエの本来の意匠に近づけるため館内施設整備中!
本日は、東京都内唯一の世界文化遺産「国立西洋美術館本館」について、書かせていただきたいと思います。国立西洋美術館、設計者は近代建築の三大巨匠のひとりである、ル・コルビュジエ氏です。世界遺産としては、『ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-』という、一連のコルビジュエの建築作品群の“シリアルノミネーション・サイト”として2016年に登録されました。この「ル・コルビュジエの建築作品群」は、フランス、スイス、インド、アルゼンチン、日本と多くの国にまたがる国境を越えた“トランスバウンダリー・サイト”であり、また、それだけでなく、ヨーロッパ大陸、インド亜大陸、南米大陸、そして日本と、国境だけでなく「大陸」すらまたいだ世界初の“トランスコンチネンタル・サイト”なのです。~ 実は、このあたりのことは、先日の世界遺産検定マイスター、山本・リシャール 登眞さんの「夏のオンライン特別講座」にて教えていただきました。
さて、その国立西洋美術館は、現在長期休館中です。2021年4月に国立西洋美術館の新館長に就任した田中 正之 氏は、ウェブ版『美術手帖』のインタビューで、こんなコメントをしています。
「経年にともない、前庭の地下にある企画展示館の防水をやり直すのがおもな目的ですが、同時に前庭を創建当時の状態に戻すことにもなっています。館を設計したル・コルビュジエの本来の意匠にできるだけ近づけ、ル・コルビュジエの発想をもう一度体験できるようにするための工事ですね。館長としても、世界遺産としての本館の建築的意義はもっと伝えていかなければいけないと思っています。」
建物というものは、必ず劣化します。作られた建物は、使い続けて、メンテナンスを続けて、守り続けていかなければ、その価値は早晩失われてしまうのです。この国立西洋美術館は1959年の完成ですから、世界遺産の建物としては、比較的新しい建築物ですが、それでも、60有余年の歳月を経過した建造物です。国立西洋美術館は非常に多くの来館者がある施設であり、建築後、その利便性を高めるため、さまざまな改修が行われてきました。この国立西洋美術館の世界遺産承認にあたって、事前審査の際、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関・国際記念物遺跡会議(ICOMOS)は、専門家の見方として、「西洋美術館の前庭は、本来の姿が損なわれている。」と指摘しています。今回の改修では、この世界遺産の美術館を末永く使っていける建物として保全するために補修するだけでなく、同時に、建築後に変更されてしまった現在の前庭を創建当時の状態に戻し、ル・コルビュジエの本来の意匠にできるだけ近づける改修工事が行われるというのです。このことは、世界遺産としての真正性をより確保することにつながるのではないしょうか。新館長の言葉にあるように、今回の改修で、国立西洋美術館が、ル・コルビュジエの本来の意匠に、より近づいて、これからもこの国立西洋美術館が東京都内唯一の世界文化遺産としての建築的意義をこれからも守り続けてくれることを期待したいと思います。
また、この国立西洋美術館は、ル・コルビュジエの弟子である前川 國男・坂倉 準三・吉阪 隆正が実施設計・監理に協力し完成した建造物です。日本の近代建築の礎を築き、のちに数々の名建築家を育て上げた彼らの情熱も、この国立西洋美術館とともに、これからも末永く守り続けられることを、心より願っています。国立西洋美術館の真向かいには、前川 國男 設計の名建築「東京文化会館」が建っています。国立西洋美術館の整備が終わったらこちらも是非合わせて訪ねていきたいと思っております。2022年の整備事業の完成が待ち遠しいです。
村上 千明