第33回世界遺産委員会ニュース③(新規文化遺産の紹介[2])
2009年 世界遺産委員会ニュース③
カーボヴェルデとブルキナファソに世界遺産誕生!
スペインのセビーリャで開催された第33回世界遺産委員会で新規登録が決まった13物件(文化遺産11物件、自然遺産2物件)のうち、まずはその中から文化遺産の残りの6物件を紹介します。
● ロロペニの遺跡群 (ブルキナファソ)
ブルキナファソ最初の世界遺産であるロロペニの遺跡群は、石壁のある11,130平方メートルの遺産です。かつてサハラ砂漠の黄金貿易を支えた都市の遺構で、100個の石垣の中の一部や、ロビ族所領の中でも保存状態のよい10の砦が遺産登録されています。コートジボワールやガーナ、トーゴとの国境近くに位置し、少なくとも1000年以上の歴史があるとされています。ローロン族かクーランゴ族の支配の下で金の抽出と精錬がなされ、14~17世紀に最盛期を迎えました。
遺跡群は長い年月の間うち捨てられており、まだ多くの遺跡が発掘されていないこともあり、謎に包まれてもいます。この地が最終的にうち捨てられた19世紀初頭の出来事が解明されれば、多くの情報をもたらすであろうと期待されています。
英 語 名:The Ruins of Loropeni
仏 語 名:Ruines de Loropéni
登録基準:(iii)
● シダーデ・ヴェーリャ、リベイラ・グランデの歴史地区 (カーボヴェルデ)
18世紀後半にシダーデ・ヴェーリャに改名されたカーボヴェルデの都市リベイラ・グランデは、サンティアゴ島の南に位置し、15世紀半ばにポルトガルが築いた、ヨーロッパにとって初の熱帯地域における植民都市でした。ヴァスコ・ダ・ガマやコロンブスも立ち寄った大航海時代の重要な公開ルートの一部で、奴隷貿易の中継点ともなりました。しかしその後、海賊の来襲で街は破壊されます。18世紀後半には、廃虚の上に新たな都市シダーデ・ヴェーリャつくられましたが、教会や王立の砦、16世紀の大理石の柱で飾られた晒し台広場など、16世紀の植民都市当時の雰囲気を残す街路が、今も残っています。
またカーボヴェルデ最初の世界遺産です。
英 語 名:Cidade Velha, Historic Centre of Ribeira Grande
仏 語 名:Cidade Velha, centre historique de Ribeira Grande
登録基準: (ii)(iii)(vi)
● シューシュタルの歴史的水利システム (イラン)
人類の創造的資質を示すものとして登録されたシューシュタルの歴史的水利システムは、紀元前5世紀頃にアケメネス朝ペルシアのダレイオス1世がパサルガダエから遷都した首都スーサ(現シューシュタル)にあり、ササン朝ペルシアの時代に灌漑、戦時における水の確保、各家ごとに水を供給する目的で作られました。。
カールーン川のふたつの排水水路を含み、そのひとつであるガルガー運河は、現在でも工場用のトンネルを使ってシューシュタル市に水を供給しています。また流域に水が流れ込む崖があり、その姿は壮観です。そしてその水は市の南部に位置する平野に流れ込むため、そこに農地や果樹園を作ることが可能となり、4万ヘクタールのその地は天国として知られています。サラセル城や水利システムのオペレーション・センター、水位を測るコラー・ファランギの塔、ダム、橋、湾、工場など特徴的な遺産の複合体として世界遺産登録されています。
エラム王国やメソポタミアの知識に関する情報を含むのみならず、ナバテア王国やローマ建築の影響も同様に知ることが出来る遺産として注目されています。
英 語 名:Shushtar Historical Hydraulic System
仏 語 名:Système hydraulique historique de Shushtar
登録基準:(i)(ii)(V)
● 聖都カラル・スペ (ペルー)
聖都カラル・スペは、砂漠大地を見下ろすスペ川の緑の谷に位置する626ヘクタールの遺産で、アメリカ大陸に興った文明の中でも最も古いもののひとつで、500年続きました。
特に保存状態が良く、建築デザインや技法、記念石碑、土壇、水中にある円形広場などが特徴的です。同じ地域にある18の都市遺跡のひとつカラルは6つの巨大ピラミッドを含む複合建築物群です。その地で発見されたキープ(アンデス地方特有の組み紐)からは、カラルの発展とその文明の複雑さを知ることが出来ます。ピラミッド構造や指導者層の住居跡を含む都市プランとその構成建造物群は、強力な宗教指導者のいる儀礼機能を持った文明であることを示しています。
英 語 名:Sacred City of Caral-Supe
仏 語 名:Ville sacrée de Caral-Supe
登録基準:(ii)(iii)(iv)
● 朝鮮王朝の王墓群 (韓国)
李氏朝鮮王朝の王墓群は、18箇所以上に点在する40の王墓から形成されています。15~20世紀にかけて5世紀以上にわたって造営された王墓群は、祖先の栄光を記念して偉業や王家の権威を示すのみならず、祖先の霊魂を悪霊から護り、墓自体も破壊を防ぐように考慮されています。傑出した自然美が王墓建築において重要視され、山を背にする特徴に加えて、南方の水に面して山々の稜線に背後から抱かれるように作られています。自然の美しい場所が王墓の場所として選ばれ、そこに墓所や儀礼場、入り口が作られました。埋葬用の塚に加えて、T字形の木造神殿や墓石小屋、王家の台所、番人の詰め所、赤い鋲のうたれた門、墓護人の家などがあり、敷地内は人物や動物の石のオブジェで飾られています。
また『朝鮮王朝の王墓群』の登録により、既に世界遺産登録されている『慶州の歴史地区』や『高句麗古墳群(北朝鮮)』と共に、朝鮮半島における主な王墓群がすべて登録されたことになります。
英 語 名:Royal Tombs of the Joseon Dynasty
仏 語 名:Tombes royales de la dynastie Joseon
登録基準:(iii)(iv)(vi)
● ポントカサステ水路橋と運河 (イギリス)
ウェールズの北東に位置するポントカサステ水路橋は、長さ18kmにも及ぶもので、産業革命期の土木工学の集大成として19世紀初期に完成しました。
地理学的な困難さを克服するため、運河建築には堅牢さのみならず、閘門(こうもん)を省くなどの大胆な土木工学的解決策を必要としました。著名な土木技師トマス・テルフォードによって考案された水路は、土木工学と歴史的価値を持つ金属構造の先駆け的な傑作です。水路での鍛鉄(たんてつ)の使用は、軽くて丈夫なアーチ構造の工事を可能としただけでなく、上品さをも備えさせています。
ポントカサステ水路橋と運河は、人類の創造的資質とヨーロッパで既に得られていた専門的技術の統合を示す例として登録され、その革新的な知識と技術の融合が世界中の多くの建築に影響を与えています。今ももちろん現役であり、水路橋の上をナローボートが渡ります。
英 語 名:Pontcysyllte Aqueduct and Canal
仏 語 名:Pont-canal et canal de Pontcysyllte
登録基準:(i)(ii)(iv)
※この文章は、UNESCOホームページに掲載されているニュースをもとに執筆・編集しています。https://whc.unesco.org/en/newproperties/(英語) https://whc.unesco.org/fr/nouveauxbiens/(仏語)
※UNESCOのニュースだけでなく、物件を保有する国や地方自治体など、現地の組織が提供する情報を解説文中に加えているものもあります。
※新規登録物件および範囲拡張物件の遺産名はまだ正式決定のものではなく、その日本語訳も世界遺産アカデミーが独自に付けたものであり、今後変更の場合があります。
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