2010 新規登録物件紹介 ③
2010年 世界遺産委員会ニュース③
マーシャル諸島共和国とキリバス共和国に世界遺産誕生!
ブラジルのブラジリアで7月25日~8月3日に開催された「第34回世界遺産委員会」で新規登録が決まった21物件(文化遺産15件、自然遺産5件、複合遺産1件)のうち、残りの文化遺産5件、自然遺産2件を紹介します。
■ ビキニ環礁-核実験場となった海(マーシャル諸島共和国)
第二次世界大戦後すぐに始まった冷戦の中で、アメリカ合衆国は太平洋のマーシャル諸島にあるビキニ環礁での核実験再開を決定します。島民を移住させた後、1946年から1958年にかけて67回の核実験が行われました。そこには1952年に行われた最初の水爆実験も含まれています。
ビキニ環礁には、1946年の核実験で沈没した船が環礁の底に横たわり、1954年の水素爆弾(ブラボー)によってできた直径約2kmに及ぶクレーター(ブラボー・クレーター)が残るなど、核実験の威力を直接伝える明白な証拠が残されています。また、この1954年の水爆実験では、日本のマグロ漁船、第五福竜丸も被爆しました。
累積すると広島に投下された原爆の約7,000倍に及ぶ威力の核実験で、ビキニ環礁の地質にも自然環境や生態系にも、また被爆した人々の健康にも重大な被害をもたらしました。その脅威はいまだ過ぎ去ってはいません。
そうした歴史を通じて、ビキニ環礁は「平和」や「地上の楽園」といったイメージとは裏腹に、「核の時代」の幕開けを象徴しています。ビキニ環礁はまた、世界の非武装化に向けた世界的な運動にもつながっています。
ビキニ環礁は、マーシャル諸島から最初に登録された世界遺産です。
英 語 名:Bikini Atoll Nuclear Tests Site
仏 語 名:Site d’essais nucleaires de l’atoll de Bikini
登録基準:(iv)(vi)
■ アムステルダム中心部の17 世紀の運河網(オランダ王国)
アムステルダム運河地区の歴史的都市は、16世紀末から17世紀初頭にかけての新しい「港湾都市」プロジェクトとして建設されました。そこには歴史的旧市街の西と南へ続く運河網と、旧市街を囲む中世の港が含まれます。中世の港は、都市の要塞化された境界線であるジンフェルグラハトの内陸部の位置が再び移ったことによって完成しました。これは沼沢地から排水し、中心を同じくするアーチ状の運河網システムを使い、その内側の空間を埋めることによって、市街地を拡大することを含む長期的な計画でした。この干拓地では、切妻造りの家や記念碑的な建造物を含んだ同質な都市空間がつくられていきました。切妻造りの屋根は中産階級の都市の特徴で、住居は海運を通して裕福になった都市や、人文主義やカルヴァン主義的寛容の発展を証明するものとなっています。
こうした完全に人工的に成し遂げた都市の拡大は、当時において最も大きく最も均質なもので、大規模都市計画の理想的なモデルとして19世紀に至るまで世界中で参考とされました。
英 語 名:Seventeenth-century canal ring area of Amsterdam inside the Singelgracht
仏 語 名:Zone des canaux concentriques du 17e siecle a l’interieur du Singelgracht a Amsterdam
登録基準:(i)(ii)(iv)
■ 登封の歴史的建造物群-天地之中(中華人民共和国)
古代中国の王朝の首都のひとつで正確な位置は不明とされる都が現在の登封にあり、何世紀もの間、天地の中心の概念と結び付けられてきました。正確に天体観測が可能な唯一の場所と考えられていたからです。そして天地の中心は、自然においては嵩山(すうざん)であると考えられ、皇帝達は自らの力を強化する手段として嵩山崇拝を利用しました。現在でも嵩山は、中国の中心的な聖山であると考えられています。
この標高1,500mの嵩山の麓、河南省の登封市の近く40平方km以上に広がる地域には、8つの建造物・遺跡群があり、中国で最も古い宗教建造物である三闕門や寺院、周公観景台、登封観星台の他、禅宗と少林拳の本山である嵩山少林寺などが含まれています。9つの王朝に亘って建設されたこれらの建造物は、天地の中心や信仰の中心としての山岳の力などが、異なった方法で受け入れてきたことを伝えています。
登封の歴史的建造物群は、祭式や科学、技術、教育に捧げられた、古代中国の建造物の多くの最良の例を含んでいます。
英 語 名:Historic Monuments of Dengfeng in “The Centre of Heaven and Earth”
仏 語 名:Monuments historiques de Dengfeng au ≪ centre du ciel et de la terre ≫
登録基準:(iii)(vi)
■ サン・クリストヴァンのサン・フランシスコ広場(ブラジル連邦共和国)
ブラジル北東部サン・クリストヴァン市街にあるサン・フランシスコ広場は、ポルトガルやスペイン王室に統治されていた時代の証拠となる公共施設や私邸からなる、例外的かつ同質的な建造物群です。広場は四角形の開放空間で、非常に初期の建造物であるサン・フランシスコ教会やその女子修道院、サンタ・カーサ・ダ・ミゼリコルディア教会、地方公邸やそれを取り囲む様々な時代の住宅などが広場を取り囲んでいます。
サン・フランシスコ広場は、都市植民地の独特な例です。ここではポルトガルがもたらした土地利用の方法と、スペインによって確立された都市の定義が混ざり合っています。つまり、ポルトガルとスペインの都市計画が見事に共存していると考えることが出来るのです。
18~19世紀の住居とこの建造物群は、都市が誕生して以来の歴史を反映した都市景観を造りあげており、フランシスコ会の建造物群は、ブラジル北東部で発展する修道会に特徴的な建築のひとつの例となっています。
英 語 名:São Francisco Square in the Town of São Cristóvão
仏 語 名:Place São Francisco dans la ville de São Cristóvão
登録基準:(ii)(iv)
■ タブリーズの歴史的バザール(イラン・イスラム共和国)
東西交易路の最も盛んな場所のひとつにあるタブリーズは、古い時代より文化交流の地であり、その歴史的バザールはシルクロードにおける最も重要な商業の中心のひとつです。
タブリーズの歴史的バザールは、屋根で覆われたそれぞれ相互につながったレンガ造りの建物や、様々な機能(商業・交易や親睦会、教育・宗教的実践など)を持つ空間などの一連のまとまりからできています。
東アゼルバイジャン地方にあるタブリーズとそのバザールは、サファヴィー朝の首都となった13世紀頃には、すでに繁栄しており有名でした。16世紀に首都としての地位を失ったものの、商業拠点としての重要性はオスマン帝国の拡大もあり、18世紀末まで続きます。
タブリーズの歴史的バザールが、最も重要な国際的商業・文化の交易地であり続けたのは、数世紀にわたり交易を続けた東西交易路の上にあり、または基本財産に対する賢い知恵や税金控除のおかげでもありました。
タブリーズの歴史的バザールは、イランの伝統的商業・文化システムの最も完全な見本のひとつとなっています。
英 語 名:Tabriz Historic Bazaar Complex
仏 語 名:Ensemble du bazar historique de Tabriz
登録基準:(ii)(iii)(iv)
■ フェニックス諸島保護地域(キリバス共和国)
フェニックス諸島保護地域(PIPA)は、太平洋上408,250平方kmに広がる、海生・陸生生物の生息域です。この遺産は、キリバスの3つの諸島のひとつであるフェニックス諸島を含み、明確に指定された海洋保護地域としては世界で最大です。
フェニックス諸島保護地域は、既に知られている死火山と考えられる14の海山や他の深海生物と共に、世界で最も大きな海洋珊瑚群島の生態系のひとつを無傷のまま保護しています。
この地域は、他の陸地から遠く離れているために海洋の生物地理学において独自の地位を築いており、約200種の珊瑚類や500種の魚類、18種の海洋哺乳類、44種の鳥類を含む、既に知られているおよそ800種の動物相をみることができます。
フェニックス諸島保護地域における生態系の構造と役割は、その原初の自然と、回遊路や生息域としての重要性をよく示しています。
フェニックス諸島保護地域はキリバス共和国最初の世界遺産です。
英 語 名:Phoenix Islands Protected Area
仏 語 名:Aire protégée des îles Phoenix
登録基準:(vii)(ix)
■ レユニオン島-峻峰と圏谷、その断崖(フランス共和国)
レユニオン島における世界遺産登録範囲は、レユニオン国立公園の核心地域と一致しています。インド洋の南西に位置し、ふたつの火山山塊と隣接するレユニオン島の40%にあたる100,000ヘクタール以上を含んでいるのです。
塔のようなふたつの火山の頂きや巨大な絶壁、3つの断崖に縁取られた圏谷が特徴です。また遺産は極めて多様な地形に覆われ、目を見張るような景観を作り上げる印象的な断崖や、森に覆われた峡谷や盆地などから形成されています。ここは、高いレヴェルで地域の固有性を示す植物の、原生の状態での多様性を保つ自然の生息域となっています。
レユニオン島には、特筆すべき亜熱帯雨林や雲霧林、常緑低木があり、それらが観る者に訴えかけてくるほど特徴的な景観や生態系の組み合わせを作り上げています。
英 語 名:Pitons, cirques and remparts of Reunion Island
仏 語 名:Pitons, cirques et remparts de l’ile de la Réunion
登録基準:(vii)(x)