■ 研究員ブログ22 ■ ようこそ、世界遺産! 平泉編
すっきりしない天気が続いていると思ったら、
とうとう梅雨に入ってしまいました。
農作物には欠かせない雨ですが、
もう少し五月の爽やかさを満喫したかった気もします。
今回は、前回の『小笠原諸島』に引き続き、
ICOMOS から世界遺産リスト「記載」勧告のでた
『平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び関連の考古学的遺産群』
についてです。
平泉は皆さんご存知の通り、
2008年の第32回世界遺産委員会にて「記載延期」決議を受け、
今回の再チャレンジで晴れてICOMOS からの「記載」勧告となりました。
世界遺産登録となれば、東北の人々のよい励みとなると思います。
めでたい。
これは前回の『平泉-浄土思想を基調とする文化的景観』から
大きく申請書類のストーリーを変換させ、
構成物件も9資産から「浄土思想の表現」に強く関連する6資産に再構成し、
名前も『平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び関連の考古学的遺産群』
変更しての挑戦でした。
ただ、今回の日本からの推薦書がそのまま認められたわけではなく、
いくつかの注文が付きました。
① 登録基準(iv)について
登録基準(ii)(iv)(vi)で申請していましたが、
今回、登録基準(iv)は当てはまらない、との指摘がありました。
浄土思想を示す浄土庭園や寺院群は同時代の朝鮮半島でも見られる上、
日本の浄土庭園は日本独自のものであって
「人類の歴史の特定の時期を示すものではない」
という指摘です。
登録基準(iv)は「人類の歴史上において代表的な段階を示す」ものなので、
平泉の浄土庭園が、またアジアの別の国に影響を与えていたりしたら、
この登録基準も認められたのかもしれません。
② 柳之御所遺跡について
構成物件のひとつ「柳之御所遺跡」は、
「浄土思想との直接的な関連性が薄い」ということで、
構成資産から除外した方がよい、とされました。
具体的には登録基準(ii)にどのように寄与しているかの証明が
不十分だったようです。
③ 名称について
「考古学的遺跡群」という名にふさわしい内容でないため、
登録名から「考古学的遺跡群」を外し、
『平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園』への変更を勧められました。
④ 開発について
道路建設による遺産への影響や、開発における遺産への視覚的な影響を
よく考慮しなければならない、との指摘がありました。
また見学者の管理手法も策定しなさいと。
他にも発掘調査や遺産保護などについてありましたが、
これに従えば恐らく問題なく世界遺産登録となると思います。
先日、世界遺産検定マイスターの方から、
ICOMOS から「記載」勧告を受けた遺産でも
世界遺産委員会で登録見送りになった遺産があると指摘を受けました。
『ダンの三重アーチ門』というイスラエルの暫定物件です。
2008年の第32回世界遺産委員会の議事録を見ると、
登録基準(ii)の普遍的価値等について詳細な情報を再提出して、
2009年の第33回世界遺産委員会で再審議、となっています。
つまり「情報照会」議決です。
そこで2009年の議事録をみると、審議された遺産には登場しません。
2008年のICOMOS の勧告を確認できていないのですが、
本当にICOMOS が「記載」勧告をしていたとしたら、
ICOMOS から「記載」勧告を受けた遺産が
世界遺産委員会で登録見送りになった、ということになります。
でもこれが本当だとしたらすごいことですね。
専門家の見解であるICOMOS の調査結果を、
専門家ではない世界遺産委員会が覆したわけですから。
それも、ICOMOS も世界遺産委員会に参加しているというのに!
『平泉』も『小笠原諸島』も、
世界遺産リスト入りに王手をかけてはいますが、
まだまだ最後まではわからないよ、というコトですね。
わくわくドキドキの世界遺産委員会までもう少しです。