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■ 研究員ブログ29 ■ エルサレム あるいは パレスチナとイスラエル

パレスチナがユネスコに正式加盟になりそうです。

ユネスコの執行委員会でパレスチナのユネスコ加盟が採択され、
10月25日に始まるユネスコ総会で正式に可決されれば、
パレスチナはユネスコの195番目の加盟国・地域となります。

これは国際組織がパレスチナを「国家」と認めることにつながるため、
今後の、パレスチナの国連加盟にも大きく関係しそうです。

そしてパレスチナのユネスコ加盟に強く反対しているのが
アメリカ合衆国です。
パレスチナの国連加盟では拒否権をちらつかせていますが、
ユネスコ総会には拒否権がないので、
ユネスコ予算の約2割を占めるアメリカ合衆国の拠出金の凍結という形で、
反対の意思を示しています。

アメリカ合衆国のユネスコ脱退は前例があるので、
今後どうなるのか注目です。

世界遺産の視点で見ると、
『エルサレムの旧市街とその城壁群』がどうなるのか、
というところに関心があります。

エルサレムに関してはその帰属問題が一番大きな問題です。
『エルサレムの旧市街とその城壁群』のある地域は、
現在イスラエルが実質的に支配していますが、
イスラエルの首都として国際的に認められているわけではなく、
パレスチナも領有権を主張しています。

そうした複雑な状況を踏まえて、
『エルサレムの旧市街とその城壁群』の保有国名は、
936もある世界遺産の中で唯一
「エルサレム」という実在しない国名になっているのです。

そもそも『エルサレムの旧市街とその城壁群』の世界遺産登録には、
イスラエルに対する政治的な意味合いがありました。

1967年にイスラエル軍がエルサレム旧市街を含む東エルサレムを占領すると、
翌1968年のユネスコ総会でイスラエルに対し、
エルサレム旧市街での文化財保護を求める決議がなされます。
しかしイスラエルは積極的に事態の改善を図る姿勢を見せず、
ユネスコは何度も同様の表明をイスラエルに示しました。

その後、世界遺産条約が1972年に採択されると、
ユネスコはエルサレム旧市街の世界遺産リストと危機遺産リストへの
早期記載を目指して動き出します。

ユネスコは、エルサレムに世界遺産という冠を与え
国際協調と平和のシンボルとしようと考えていたわけです。

当初ヨルダンの推薦書に含まれていなかった
シナゴーグや「嘆きの壁」などがICOMOSの提言により加えられ、
1981年世界遺産リストに加えられました。

この審議で唯一、反対票(棄権5票)を投じたのが
世界遺産委員会の政治化を懸念したアメリカ合衆国でした。
因みにこの時、イスラエルはまだ世界遺産条約を締約していません。

しかし複雑な情勢は、保全体制にも影を落とし、
世界遺産登録の翌年には危機遺産リストに登録され、
それから29年、危機遺産リストから外れることが出来ません。

今回パレスチナがユネスコに加盟し、国連にも加盟することになると、
当然『エルサレムの旧市街とその城壁群』の問題も
再燃することになると思います。

世界遺産というのはとても耳目を集める冠であるだけに、
良くも悪くも政治的に利用されるコトがあります。
ただ政治的利用によって遺産を危機に陥れたり、
国際関係を悪化させたりするのはやめてもらいたいものです。

『エルサレムの旧市街とその城壁群』の保有国名はいつか変わるのでしょうか。
今後も目の離せない世界遺産です。