■ 研究員ブログ64 ■ 明治日本の産業革命遺産①:勧告はGW中?
今年も桜の季節が過ぎて、ゴールデンウィークが少しずつ近づいてきました。
4月に雨が多かったせいか、今年は木々を新緑が覆うのが早い気がします。
ここ数年、この時期の世界遺産関連の話題といえば、
ICOMOSからどのような勧告がでるか!? だと思います。
ICOMOSからの勧告は、
世界遺産委員会の6週間前までに出されることになっています。
今年の世界遺産委員会は、6月28日から7月8日までの日程で、
ドイツのボンにて開催されますので、
その6週間前というと5月10日までに出る、ということになります。
6週間前までとは言うものの、ぎりぎりに出ることはあまりなく、
例年ちょっと早めに出されているので、
今年も5月初旬、GW中くらいには勧告が出されるのではないでしょうか。
今年、日本から世界遺産登録を目指し、ICOMOSの勧告を待っているのは、
「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」です。
この遺産の特徴はいくつかあります。
まず、九州と山口を中心に、静岡や岩手など、8県11市に資産が点在する、
日本では珍しい資産構成になっている点です。
このように構成資産の距離が大きく離れている
シリアル・ノミネーション・サイトは日本では初めてです。
シリアル・ノミネーションというのは、
同じような特徴や背景をもつ複数の遺産を「ひとつの遺産」として登録することで、
遺産の価値をさまざまな角度から立体的に証明するものです。
日本でももちろん、隣接地域でのシリアル・ノミネーションはこれまでもあります。
このシリアル・ノミネーションや、国境をまたぐトランスバウンダリーという
登録の仕方は、世界遺産の内容と保有国の多様化と徒な遺産数増加の防止、という、
近年の世界遺産委員会の方向性に沿ったものといえます。
次に、明治日本の産業革命遺産は、
日本初の産業革命に関する産業遺産です。
産業遺産はさまざまな定義がありますが、
「人類の経済・産業活動に関するもの」とする場合と、
「産業革命に関するもの」とするものに大きく分けることができます。
「人類の経済・産業活動に関するもの」から「産業革命に関するもの」だけ
別にすることが可能だ、とも言えます。
産業革命に関する遺産は、英国を中心に、ヨーロッパには多くあるのですが、
日本を含むアジアには産業革命に関する遺産はありません。
インドに鉄道遺産はありますが、少し意味合いが違います。
その点で、明治日本の産業革命遺産は、
日本のみならずアジアでの産業国家の成立を証明する、
世界史的に見ても重要なものだと言えます。
そして、世界遺産の内容の多様化を目指すグローバル・ストラテジーの中で
産業関連遺産の重点化も挙げられていますので、
その点でも世界遺産委員会の方向性に沿っています。
最後に、明治日本の産業革命遺産は、
日本の文化遺産では初めて、文化庁の推薦ではなく内閣府の推薦で候補になりました。
内閣府が産業遺産の保護に適用する法律を拡大してまで推薦した遺産ですので、
それなりに内閣が力を入れてくると思います。
それに、恐らく日本が世界遺産委員会の委員国であるのは、
今年の審議が今任期では最後だと思います。
そうした政治的な背景もプラスに影響してくるのではないでしょうか。
ICOMOSから勧告が出されるまであと少し。
楽しみにして待ちたいと思います。
産業遺産を、廃墟ではなく私たちの歴史を証明する遺産として残すために。