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■ 研究員ブログ67 ■ 明治日本の産業革命遺産④:ICOMOSの勧告を予想

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今日は日本中、夏に向かって季節が進んでいることを感じさせる天気だったみたいですね。
GWも近づき、天気予報に晴れマークが並ぶと、
なんだかちっとも仕事が手につかないのは僕だけでしょうか。

「明治日本の産業革命遺産」へのICOMOSの勧告が、いよいよ近づいてきました。
新聞社によっては先週土曜日から臨戦態勢(!?)に入っているところもあると聞きます。
地元の方々や関係者の皆さんも楽しみにされていることでしょう。

「どのような勧告がでそうですか?」とよく聞かれるのですが、
本当のところ、よくわかりません。
まぁ毎回、僕なんかがわかるわけがないのですが、
この「明治日本の産業革命遺産」は特によくわからないのです。

提出された推薦書の内容を見ていないですし、
23ある構成資産の中で実際に観たことがあるものはわずかしかありません。
それに、これまでの日本の文化遺産とは色々と異なっていて、
これまでの知見を当てはめにくい、ということもあります。

ただ立場上、どうなるんでしょうね?あはは、というわけにもいかないので、
僕なりの予想をすると、条件付の「登録」か、「情報照会」じゃないかなと思っています。

理由としてはいくつかあります。
まず「産業遺産」というのが、
現在の世界遺産委員会の方針であるグローバル・ストラテジーに沿っている、という点です。

世界遺産委員会は、
世界遺産リストが中世の建造物やキリスト教関連、西欧の遺産などに偏っているという理由から、
世界遺産リストの不均衡是正を目指したグローバル・ストラテジーを1994年に採択します。
その中のひとつで、「内容の不均衡是正」として、先史時代の遺跡や産業関連遺産など、
これまで登録数のあまり多くなかった分野を重視し、
世界遺産リストが、人類の歩んできた歴史のすべてを証明するものになることを目指しています。

「明治日本の産業革命遺産」はアジアの産業革命を証明するものとして、
世界遺産リストの多様化を目指すにふさわしい遺産だといえます。

次に、世界遺産条約というのは、成り立ちからして欧米的な考え方に基づいています。
真正性や保護・保全のあり方など、
この約40年の間に普遍的なものへと「進化」してきていますが、
まだまだ根底には欧米的なものがあると感じることがあります。

今回の「明治日本の産業革命遺産」のように
非欧米地域が、欧米を模範に近代化を成し遂げた、というのは欧米の好きそうな物語です。
この遺産の物語性という点で、受け入れられやすいと思っています。

また、海外の人々から同じように見える、木造のお寺や神社ではなく、
日本では珍しい「近代の産業遺産」であるという点も、目新しく、プラスに影響するはずです。
同じようなキリスト教の聖堂はたくさん登録されているのに、
それ以外の文化のものは「違いがよくわからない」なんて言われてしまうのです。
彦根城なんてかわいそうですよね。

一方で、不安もあります。
構成資産が多すぎる、という点です。
23資産まで絞られていますが、まだまだ同じような資産が多くある上に、
本当にこの資産は「明治日本の産業革命遺産」の物語を証明するのに必要なのか? と疑問なものも、
いくつかあるように感じます。

遺産の価値を説明する物語を、さまざまな角度から色々と説明したい、というのも理解できますが、
もう少しすっきりとシンプルな遺産構成で説明した方がよいのではないかとも思います。
富岡製糸場も平泉も、そうすることで遺産価値がぎゅっと濃くクリアになり、
世界遺産登録につながりました。

「明治日本の産業革命遺産」では、この資産構成が理由で「情報照会」になる可能性がありますし、
「登録」勧告となっても、構成資産の一部除外を勧められる可能性もあります。
同じように、もっと遺産価値をわかりやすく示す遺産名への変更や、
稼働中の資産の保全計画の見直し、バッファー・ゾーンを含む登録範囲の見直し、
なども指摘される可能性もあります。

ICOMOSは近年、遺産価値がひと目でわかるような遺産名を勧めていますし、
稼働中の遺産や、端島(軍艦島)のように廃墟となっている遺産の保護・保全計画が、
資金計画も含めて、充分であるとは思えないからです。

ただ、「情報照会」までの勧告であれば、
本会議で「登録」決議にもっていくことは可能だと思います。
最近の世界遺産委員会は、よくも悪くも、政治力が強く働きます。
先日も書いたように、今回は政府もこれまで以上に力を入れていると思うので、
「政治力」という点では、大丈夫なのかな、と思っています。

こうした僕の予想が、どこまで当たるのかしらん。
予想が外れて、無条件での「登録」勧告だったら、
それはそれで全く問題ない、喜ばしいことですが。

「明治日本の産業革命遺産⑤:世界遺産はナショナリズムを満たす場所ではない」はコチラ