whablog
NPO法人 世界遺産アカデミーTOP  >  オフィシャルブログ  >  ■ 研究員ブログ69 ■ 明治日本の産業革命遺産⑥:出ました、登録勧告!(前編)

■ 研究員ブログ69 ■ 明治日本の産業革命遺産⑥:出ました、登録勧告!(前編)

2015.05.07-1

GWの最中の5月4日。
「明治日本の産業革命遺産」に対し、ICOMOSから「登録」の勧告が出ました。
23の構成資産すべてを含む登録勧告です。
いくつか削るように言われるかもと思っていたので、ほっとしました。
同時に、あまりにあっさりした勧告で、拍子抜けした感じもしますが。

勧告では、端島(軍艦島)などの保全計画の見直しや、
稼働中の施設を含む資産への観光対策、来訪者の上限設定、
資産周辺の開発の影響などを、
2018年の世界遺産委員会までに報告することが求められています。
これは本会議の決議でも求められると思います。

また登録基準は(ii)(iv)が認められ、
(iii)は認められませんでした。

■ 名称の変更

勧告の中で、名称の変更が提案されました。
名称の変更は、富士山の勧告でもありましたが、
その時と今回は意味合いが違っています。

今回は、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」から
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」へ、
より資産価値を明確にするものへの変更指示でした。
これは事前にICOMOSの指摘を受けて内閣府が変更を申請していたらしいので、
それに従ったものでしょう。

ICOMOSは最近、遺産の名称で遺産価値の概要を示すよう求めています。
今回も、構成資産の「重工業」の側面がはっきりするように求めたものです。

一方で富士山の時は、構成資産の「三保松原」の削除と名称変更がセットになっており、
「三保松原」が証明しようとしていた「芸術の源泉」としての価値を取り除いた名称に
変更を求めるものでした。
つまり、ICOMOSは富士山における「芸術の源泉」としての価値を認めていない、ということが、
この名称変更の勧告から読み取れました。

そのため、日本としてはそれを受け入れることはできず、
さらに日本なりの名称変更を本会議までに再提案し、採用されました。

その点で、今回はICOMOSの評価と日本の出したい遺産価値が一致しているので、
おそらくICOMOSの提案をそのまま受け入れるのではないかと思います。

ただ、「製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」としたことで、
「萩城下町」や「松下村塾」、「旧集成館(旧鹿児島紡績所技師館)」などの、
本遺産内での立ち位置が曖昧になったことも確かです。

■ 遺産の保護①

今回の勧告で、端島(軍艦島)への保全計画の見直しがありましたが、
「明治日本の産業革命遺産」は、他の遺産よりも保全の計画が難しいものです。

端島は廃墟になっていますが、
原爆の悲惨さを伝える「廃墟の姿」が評価されている
『広島平和記念碑(原爆ドーム)』とは、意味合いが全く異なっています。

端島の廃墟は、見る人にノスタルジックな感情を起こさせる、
人の心を揺り動かす迫力のあるものですが、、
世界遺産としてその点は、まったく評価されていません。
つまり世界遺産として、端島で「廃墟」を守る意味はないとも言えます。

また、あの規模の廃墟を守っていくのは、技術的にも資金的にも困難があります。
いつか高層ビルの廃墟が崩れ去る日が来ることでしょう。
それによる遺産価値の変化はどのように評価されるのでしょうか。
護岸や炭坑跡が守られていれば、ビル群が倒壊してもよしとするのでしょうか。

登録勧告後のテレビの暢気な情報番組をみていると、
端島を本当に守っていこうと考えているようには思えません。
世界遺産登録はお祭りでも、観光誘致のお墨付きでもありません。
日本人である僕たちも、地域の人々も、観光業界の人も、観光客も、
全員が「世界遺産」をどう守るのか考えないといけないのです。

世界遺産に登録されるということは、大きな責任を伴うものだと、
もう少し伝えられないものかと思ってしまいました。
登録勧告で嬉しいのはもちろんなのですが、
気を引き締めるのも忘れないで欲しい、と思うのです。

「明治日本の産業革命遺産⑥:出ました、登録勧告!(後編)」はコチラ