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■ 研究員ブログ69 ■ 明治日本の産業革命遺産⑥:出ました、登録勧告!(後編)

2015.05.07-2

■ 遺産の保護②

今回の資産には、稼働中の資産が含まれています。
そうした資産への観光対策や保全計画も再検討を求められています。

そもそも「明治日本の産業革命遺産」は、
文化財保護法だけではなく、景観法や港湾法を組み合わせて、
世界遺産登録に向けた遺産保護の法体制を整備しました。
これは稼働中の資産に対する配慮が見える、苦肉の策でもありました。

「港湾法」は、「交通の発達及び国土の適正な利用と均衡ある発展に資するため」の法律です。
港湾や関連施設を、文化財として「保護・保存」してゆくものではありません。

これは先日も書きましたが、
稼働中の資産を持っているのは民間企業ですので、
どこかの段階で、使用をやめて最先端の技術への改良が行われるはずです。

港湾法は「港湾の秩序ある整備と適正な運営を図る」ものでしかないので、
「世界遺産だから」という理由で保護・保全を求める強制力はありません。
その場合はどうやって世界遺産としての価値を守ってゆくのか、
その時までにおいおい考えてゆくつもりかもしれませんが、
あまり悠長なことは言っていられないはずです。

■ 韓国の反発

今回の登録勧告を受けて、韓国が反発を強めています。
報道では、世界遺産委員会の委員国に書簡を送った、というものもあります。

これも先日書きましたが、
世界遺産は、遺産のひとつの側面だけを取り上げて、
歴史問題として批判すべきものではありません。
韓国の政府も、少し冷静になってもらいたいと思います。

しかし、日本の側も、説明の仕方を考えるべきだと思います。
遺産の多様な側面を説明し切れている様には思えません。
江戸末期から明治にかけての産業遺産群は、
さまざまな側面をもった重層的な遺産のはずですが、その説明が不十分なのです。
あの時代、本当に輝かしいことだけがあった素晴らしい時代だったのでしょうか。

マイナスの面ばかり語れ、と言っているのではありません。
朝鮮人だけでなく、多くの日本の人々の苦労と血と涙の上に、あの時代はあったはずです。
あそこで日本軍の軍艦が作られたから「世界遺産」にふさわしくない、
という批判は脇においておいても、
炭坑や工場で過酷な労働を行った人々に発展が支えられていたという点や
環境破壊などが発展の裏にはあったという点など、
伝えるべきコトはたくさんあると思うのですが。

そのため、世界遺産委員会の委員国の中でも、
韓国側の主張が受け入れられる余地はあると思います。

「明治日本の産業革命遺産」の登録を韓国が阻止するためには、
韓国は7カ国を説得し、味方につける必要があります。

これは、韓国以外の7カ国が「反対」票を投じる、と言えば、
ずいぶんとそのハードルが高く聞こえるでしょう。
しかし実際には、「棄権」で充分なのです。

日本の対応次第では、面倒を避けたいと「棄権」する国も出てくるかもしれません。
そうすると、委員国20カ国(日本は審議に参加しない)から「棄権」した国を引いた数の中で
3分の1を超えればよくなります。
韓国は7カ国の賛同する国を集める必要はなく、
一定数の韓国に賛同する国を確保したら、残りの国に「棄権」を勧めればよいのです。
その可能性は、実はそんなに低くないと、僕は思っています。
油断はできないのです。

日本はしっかり、韓国や他の委員国に説明すべきです。
構成資産が作られた年が1910年(韓国併合)以前だから、
「1910年以前の価値で申請している」と言っても、
歴史は続いており、効果的な反論にはなっていません。

韓国による反発も承知で推薦したのですから、
「明治日本の産業革命遺産」の価値と、それを「世界遺産」として守る意義を、
しっかり伝えてもらいたいと思います。

ICOMOSの登録勧告から、本会議での情報照会決議なんてことにならないように願っています。

「明治日本の産業革命遺産⑥:出ました、登録勧告!(前編)」はコチラ