■ 研究員ブログ77 ■ 明治日本の産業革命遺産、日本は韓国に押し切られたのか?
今回の『明治日本の産業革命遺産』の登録に関して、
日本は韓国に押し切られ、韓国の意向に沿った決着だったという意見があります。
本当にそうでしょうか?
僕は日本が一方的に韓国に押し切られたとは思っていません。
国際関係の外交交渉においては、いくつもの交渉のポイントがあります。
「世界遺産」という観点からいえば、
日本が決して譲ることができない点は、
「強制徴用」の説明を世界遺産の価値(顕著な普遍的価値)そのものに
含むことは避ける、ということだったと思います。
顕著な普遍的価値に含んでしまうと、
世界遺産としての価値が変わってしまうだけでなく、
それこそ、韓国側が主張するような「負の遺産」になってしまいます。
今回、最終的には、強制徴用などの説明を註としてつけるに留め、
世界遺産登録後に、日本と韓国がコメントを出す、という方法になりました。
登録後のコメントは、議事録には残りますが、
世界遺産の価値そのものに関与するものではありません。
次に優先すべきは、「確実に世界遺産に登録する」ということです。
何が大事なのかは、立場によってさまざまだと思いますが、
世界遺産委員会に参加している日本の代表にとって、
世界遺産登録ができなかった、というのは避けなければなりません。
ここで世界遺産登録ができなければ、
日本で準備を進めてきた人々に申し訳ない、というだけでなく、
国際会議の場で世界の国々に対し
日本の外交団は交渉の落しどころを見つけることができない
交渉能力のない集団であると示すことになってしまいます。
韓国に対する失態というよりも、
国際社会に対する失態の方が大きいと思います。
二国間の外交交渉の枠を超えていますから、
相手の要求を突っぱねればよい、というものでもないのです。
政治的な主張を通すためには、手段はなんでもよいという
今回の韓国のやり方は明らかにやりすぎだと思います。
遺産の領有権問題の政治性と今回の問題は違います。
政治を離れて、互いの文化を認め合い相互理解を深めるという世界遺産の場で、
今回のような政治的な意図をもった「もめごと」があったことは、
日本や韓国だけでなく、世界の国々がよく考え直す必要があるでしょう。
日本の代表団は、難しい交渉をよくまとめられたと思います。
本当にお疲れ様でした。