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■ 研究員ブログ97 ■ オバマ大統領のレガシーを平和のために!……広島平和記念碑(原爆ドーム)

2016.05.24

暑いですね。
今日、上野を歩いていたら鋭い陽射しのせいか、
目がなんだか疲れてしまいました。
風が涼やかな分、日陰は心地よかったのですが。

いよいよ5月26日から主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が始まります。
せっかく伊勢志摩の美しい風景の中で開催されるのに、
天気がすっきりしなさそうで残念ですね。

そして、伊勢志摩サミットが終われば、
いよいよアメリカ合衆国のオバマ大統領が、
現役の大統領としては初めて、『広島平和記念碑(原爆ドーム)』を訪問し、
戦争犠牲者の追悼を行います。

僕はオバマ大統領が英断されたことを嬉しく思います。

アメリカ合衆国内では、原爆投下が戦争の終結を早め、
多くのアメリカ兵や市民の命を救ったとの見方が強く、
大統領が被爆地を訪れることは難しいと考えられてきました。

しかし、大統領就任直後から「核兵器のない世界」を目指し活動してきたオバマ大統領は、
その集大成として広島への訪問を決断しました。
オバマ大統領が「核兵器のない世界」に向けてあまり進めていないことや、
今回の訪問が大統領としてのレガシー(遺産)づくりの意味しかないとの
批判があることはわかっています。
それでも、世界に対して影響力のある国の現役の指導者が、
被爆地を訪れてその被害を「肌で感じる」ということは重要です。

戦勝国が自国の戦争の総括として
原爆投下が戦争終結を早めたという視点をもち、
国内でそれが支持されるのは理解できます。

ただ、核兵器の使用が戦争を終わらせたかどうかは問題ではありません。
核兵器の非人道性が問題なのです。
戦争という非常時だろうが何だろうが、
決して使ってはいけない兵器のひとつだと僕は思います。

原爆ドームの、悪意によって捻じ曲げられた鉄骨や
崩れるコンクリートを目の当たりにすると、
戦争は人間の営みのうえで必要悪であるとか、
原爆投下が多くの人々の命を救ったなんてコトは、
僕には口が裂けても言えません。

人はみな、必ず一度、原爆ドームを訪れるべきです。
痛々しく凄惨で、誤解を恐れずに言えば閑寂な美しさすら纏うその姿は、
どんな反戦のスローガンよりも雄弁です。

その姿を見てもなお「原爆投下はしかたがなかった」なんて言える人や、
戦争を容認し核抑止力を主張する人がいたら、
感受性を育てる教育から考え直すべきだとさえ僕は思います。

このオバマ大統領の原爆ドーム訪問のニュースは、
目的地がたまたま「世界遺産だった」だけで、
世界遺産と関係ないと思われがちですが、そうではありません。

原爆ドームは1966年に広島市議会が保存を決めた後、
保護の手段として世界遺産登録を模索します。
何度も国に訴え、文化財保護法の指定基準を改正させてまで国指定の史跡に指定し、
ようやく世界遺産として保護されることになりました。
世界遺産登録されたのは、史跡の指定の翌年です。

原爆ドームは世界遺産じゃなくても存在意義がありますが、
世界遺産にすることで、日本にとって重要なだけでなく、
「世界にとって重要な遺産」になりました。

つまり、世界遺産として原爆ドームが守られてきたからこそ、
今回のような形での大統領の被爆地訪問につながったといえるのです。
まさしく、世界遺産の「物が残っている」という点がポイントでした。

華やかなイメージのある世界遺産の中で、
『広島平和記念碑(原爆ドーム)』は、
核兵器の惨禍を伝える「負の遺産」と考えられています。
しかし、これからはそれに加えて、
かつては敵国同士であった日米両国が、
戦後に良好な関係を築き上げ、共に将来に向かって歩む
「和解と平和のシンボル」として世界に発信していけたらと思います。
オバマ大統領がレガシーづくりとして利用するなら、
こちらも「平和な世界」のためにどんどん利用しましょうよ。
つらくても後ろではなく前を向いて。

人は闘わなければならない時が確かにあって、
もしかしたら、戦争は避けられない、のかもしれない。
でも僕は、ナイーヴすぎるかもしれないですが、
闘う手段は戦争や武力の行使であってはならないと思うのです。

“War is over, if you want it”

ジョン・レノンの指す you が、
ひとりひとりの個人であり、また世界中の複数の人々を指すとき、
戦争は確かに終わるのでしょう。

少なくとも、何の力も影響力もないけれど、
僕はそう望んでいます。

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