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■ 研究員ブログ103 ■ 世界遺産の最大の危機は、紛争などによる被害!……世界遺産委員会2016

レプティス・マグナ

イスタンブルで開催されている世界遺産委員会で、
危機遺産リストの記載に関する審議が行われました。

今回その審議の中で危機遺産リストに記載されたのは、
『ジェンネの旧市街』(マリ共和国)と
『シャフリサブズの歴史地区』(ウズベキスタン共和国)の2件です。

『ジェンネの旧市街』は、安全とはいえないマリの社会状況が、
世界遺産の保全に大きな影を落としていて、
そのために都市化や歴史的建造物の劣化に対処できなくなっている
ということが問題視されました。
これは、イスラム過激派によって破壊され2012年に危機遺産リスト入りした
『伝説の都市トンブクトゥ』(マリ共和国)と状況が似ています。

一方で『シャフリサブズの歴史地区』の方は、
ホテルなど観光インフラの過剰開発の影響を受けていることが理由でした。

そして驚いたことに、
危機遺産リストの審議後に、リビアの世界遺産5件全てが
危機遺産リスト入りしたとのニュースがあったのです。

理由は、国内紛争の被害が大きく、
武装勢力が未だに遺産周辺で力をもっているという
政情不安定な状況が、大きな脅威になっているということでした。

リビアの遺産は、危機遺産リストの候補には入っていませんでしたが、
世界遺産の保全状況の報告審議の中で、
危機遺産リストへの追加が決定しました。

こうしてみると、今回危機遺産リストに追加された8件のうち、
6件が紛争や武装勢力などによる被害が原因となっています。

昨年の世界遺産委員会で出された「ボン宣言」以来、
数ある世界遺産の危機の中で、
「紛争や武装勢力による遺産の被害」というのが
もっとも危険視されているように感じます。

この危機については、当事者がまず止めない限り、
究極的には手の施しようがないものです。
ユネスコや、僕たち世界中の人々ができることは
必ずしも直接的な解決策にはならないからです。

ただ、危機遺産リストに記載されるということは、
「人間の手によって危機を取り除くことが可能」である
ということです。

それが作業指針にも書かれている
危機遺産リストに記載する条件でもあるのですから。

僕たちの手によって危機を取り除くことが出来る。
これを信じていきたいと思います。

今回危機遺産リスト入りした遺産は以下の8件です。
1.『ジェンネの旧市街』(マリ共和国)
2.『シャフリサブズの歴史地区』(ウズベキスタン共和国)
3.『ガダーミスの旧市街』(リビア)
4.『キレーネの考古遺跡』(リビア)
5.『サブラータの考古遺跡』(リビア)
6.『タドラールト・アカークスの岩絵遺跡群』(リビア)
7.『レプティス・マグナの考古遺跡』(リビア)
8.『ナン・マトール』(ミクロネシア連邦共和国)※

危機遺産リストを脱したのは、
『ムツヘタの歴史的建造物群』(ジョージア)
だけですので、危機遺産の総数は55件になりました。

明日は、いよいよ国立西洋美術館本館の世界遺産登録ですね!

※ 2016年7月15日追記
ミクロネシア連邦の『ナン・マトール』(遺産名仮訳)が、
世界遺産登録と同時に危機遺産リストに記載されました。
気候変動に対処する遺産保護が求められています

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