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■ 研究員ブログ142 ■ 地域みんなの遺産へ! 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に登録勧告!

5月3日(現地時間)、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に
とうとう「登録」勧告が出ましたね!
苦労の連続だったので、本当に嬉しいです。
・・・・・・僕が苦労したわけではないので恐縮ですが。

この遺産は、これまでの日本の世界遺産の中で初めてづくしでした。

まず、文化庁の文化審議会で推薦候補となったのに、
初めて国から推薦されなかった遺産。
次に、初めて諮問機関からの勧告が出る前に推薦を取り下げた遺産。
最後に、初めてイコモスとアドヴァイザー契約を結んで推薦書を作成した遺産。

でもこれで無事に世界遺産登録されれば
初めてづくしの苦労も問題ないのです。

勧告内容を見ると、ほぼ満点の内容でした。
イコモスの中でもアドヴァイスをするチームと、
評価・勧告をするチームは異なるのですが、
評価・勧告を出すチームも、アドヴァイス内容とそれに対する県の対応などを、
よく確認して把握しているように感じました。
この方法が今後の成功例となると思いますが、
あくまで、この遺産は先行準備ができていてこそのアドヴァイスでしたので、
今後の全ての遺産が同じようにうまくいくとは限らないと思います。

◆ 今回の遺産の特徴は?

この遺産はもともと、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」という遺産名でした。
その名前からも分かるとおり、長崎に多く残る「教会堂」を遺産の中心に据えた、
「日本におけるキリスト教」の遺産という位置づけです。

しかし、「日本におけるキリスト教」が、
禁教という厳しい迫害を受けながらも、200年以上にわたり
その教えを密かに守り続けた奇跡的な歴史をもつという特徴が、
この推薦内容では明確ではありませんでした。
なぜなら、中心に据えられた「教会堂」はどれも、
禁教が解かれた後に築かれたものだったからです。

前回、イコモスから指摘されたのもこの点でした。

そこで、推薦書を一度取り下げ、
長崎県がイコモスとアドヴァイザー契約を結んで作り直した遺産価値は、
潜伏キリシタンたちが、どこでどのような方法で信仰を守り続けたのか、
という点を中心に据えた内容です。

はっきりと分かるのが、構成資産の名称です。

これまで、「出津教会堂と関連遺跡」や「黒島天主堂」のように
「教会堂」の名前が資産名になっていたのに対し、
今回の推薦書では「外海の出津集落」や「黒島の集落」のように
教会堂を含む「集落」が資産名になっています。

キリスト教伝来以前から信仰を集めていた自然崇拝の地に、
自分達の信仰を重ね合わせた「春日集落と安満岳」や、
藩の開拓移民政策にのり仏教指導者のもとで移住した「久賀島の集落」、
神道の聖地に移住することで信仰をカモフラージュした「野崎島の集落跡」など、
教会堂から焦点を広げることによって
それぞれの集落と教会堂の位置づけがはっきりわかるようになりました。

また、遺産名を「キリスト教関連遺産」から
「潜伏キリシタン関連遺産」へと変更しました。

「潜伏キリシタン」というのは、
禁教期にキリスト教由来の信仰を守り続けた人々のことです。
「潜伏キリシタン」が解禁後に、
キリスト教の「カトリック」に復帰した人々と、仏教や神道へと信仰を変えた人々、
独自のキリスト教信仰を続ける「かくれキリシタン」などへと分かれていきました。

今回の遺産名の変更で、遺産価値の時代性や意味合いも明確になったと思います。

◆ 長崎と天草地方は潜伏キリシタンだけじゃない

今回、僕がすごくよかったなと思うのが、
資産が「集落」になったことによって、
キリスト教徒以外の人々の生活や文化も
資産の範囲に入ってきたという点です。

潜伏キリシタンたちは、
異なる信仰をもつ人々と断絶して生きてきたわけではなく、
さまざまな信仰をもつ人々と、輪郭が曖昧な関係の中で暮らしてきました。
「潜伏キリシタン」と「それ以外の人々」の生活や文化を切り分けることは
無理なわけです。

そのため、今回、集落が資産価値の中心になったことで、
そうした地域の人々全体の生活や文化が含まれたことは、
今を生きる長崎や天草地方の人々にとっても納得いくものなのではないでしょうか。
それこそがこの地域の歴史のわけですから。

長崎はキリスト教徒の数が全国的に見ても多い地域です。
キリスト教徒(カトリック)の割合が全国的には0.4%ほどですが、
長崎県だけで見ると4%もいるそうです。
それでも4%です。

世界遺産が地域の人々にとって誇りとなるためには、
やはり「自分たちの遺産」だと思えることが重要です。
その点で、宗教に関連する遺産というのはデリケートなところがあります。
今回の推薦内容はそのハードルを下げたと思っています。
キリスト教徒以外も「自分たちの遺産」と思えるものに。

6月24日からバーレーンのマナーマで開催される世界遺産委員会まで、
時間はそんなにないので、引き続き登録後を見据えた準備を進めてもらいたいと思います。

いやぁ、嬉しいですね、ほんとに!

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