◇遺産復興応援ブログ:第5回 中国における“考古学ブーム”の到来で期待される世界文化遺産の人災被害に対する若き考古学者の存在2(全3話)
2021年3月末に中国から、四川省の「三星堆(さんせいたい)遺跡」で約三千年前の黄金の仮面等、祭祀坑から五百点余りの貴重な文物が35年ぶりに新たに発見されたとのビッグニュースが流れ、世界中の人々を驚かせた。*3
三星堆遺跡は四川省・成都市郊外の広漢市に位置し、面積は約12平方キロで中央には城壁のある都市遺構があり、三千年~五千年前の古蜀国の中心地と見なされている。1929年に農民よって偶然に玉器が発見されて以降は暫く放置されたままだったが、1980年代になって発掘が本格的に開始され、祭祀坑や宮殿建築、住居跡、墓地、城壁などが確認された。当時、発掘された祭祀坑2基からは、目が飛び出した「青銅縦目仮面」、全長4メートルの「青銅神樹」、金箔の仮面をつけた「貼金銅人頭像」など、多くの青銅器や金製品が発掘され、世界中に衝撃を与えた。
2016年に訪れたブーム前の「三星堆博物館」(by Koriyama)
その後、本格的な調査は30年以上行われなかったが、2021年7月の中国共産党100周年に合わせて2020年後半から発掘作業が再開され、新たに祭祀坑6基が発見された。新たに黄金仮面、青銅人物像や酒器、玉製礼器、絹、象牙など約五百点余りが出土し、再び世界中の注目を集めている。特に顔の右半分の黄金仮面の発見は金製品の中で最も大きく、中国ではCCTVの特別番組を始めとする報道各社が連日、大々的に紹介したこともあって、4月の清明節や5月の労働節の大型連休中には、全国各地から現地の「三星堆博物館」に大勢の見学者が押しかけた。現在も発掘作業が続けられており、既に千点余りの貴重な文化財が出土。発掘の模様は随時、CCTVの特番やインターネットでライブ配信されており、謎に包まれた文物の紹介とともに、最先端のハイテク器具を駆使した若い考古学者や学生達の作業ぶりが大きな話題となっている。この三星堆遺跡での「黄金仮面」の発見を契機として、人々の考古学に対する関心が急速に高まり、空前の“考古学ブーム”と化している。*4
近年、中国では数々の先史遺跡の発見が相次いでおり、三千年から五千年の“悠久の歴史”へと塗り替えられつつある。地方活性化を計る国の支援もあって、考古学界では各省による“遺跡発掘競争”の様相を呈しており、次々と貴重な遺跡の発見・発掘ニュースが相次いでいる。*5
特に、「二里頭夏都遺跡」や「三星堆遺跡」のような歴史を塗り替える遺跡の発見・発掘に関しては、先ずは遺跡の徹底調査と研究分析が行われた後、発掘された文物類を展示・紹介するための“遺跡博物館”が建立され、更には遺跡一帯を囲む“遺跡記念公園”造りへと引き継がれ、一定の調査・研究を終えた段階で世界文化遺産の登録申請へと進んでいる。最終的に登録されると当該地域一帯では観光ブームが起こり、地方活性化にも結び付くという国の文化政策の一連の流れになっている。
別途、中国経済の改革開放後の発展を背景に、中国の若者の間では高報酬を期待し、人工知能(AI)や第5世代移動通信システムを研究する科学系の学科など、最先端分野への関心が高い一方で、学芸員や専門学者など職業としての「考古学」の人気は低く、大学進学で考古学を選考する学生は少数派となっている。昨年夏、北京大学の考古学学科を専攻する女子高生のニュースが大きな話題となり、ネットユーザーからは「考古学学科は人気がないし、仕事を探すのも難しい」「大金稼げない」などの声が寄せられたとのこと。*6
一方、北京大学考古文博学院では十数年前から毎夏、高校生を対象とした“野外考古実習”を開催し、若者の考古学に対する興味と理解を深める試みを続けている。当初の参加者は北京市内の一部の高校生のみだったが、新たな世界遺産の登録や遺跡発掘ニュースが増えるにつれて全国各地からの参加も増え、2019年の「良渚古城遺跡」を舞台にした実習では、120名の募集人員を超える応募があり、若者の考古学に対する人気上昇に一定の成果を挙げている。同時に、各省の大学でも学問としての興味を持ち、考古学を選考する学生が増えているとのことで、将来の中国考古学界を担う人材の育成に大きな期待が寄せられている。(続く)
(T.Koriyama)
【参考】
*3「東方新報」2019年3月28日
*4「東方新報」2019年4月7日
*5「新華社通信」2021年4月16日掲載「2020年中国十大考古新発見」
*6「人民網日本語版」2020年8月4日