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静岡県の小笠北小学校で、世界遺産学習会が開催

(2014-12-18更新)

静岡県の菊川市立小笠北小学校(全校児童419人)で12月11日、5年生の総合学習の授業内で「世界遺産学習会」が開かれました。

小笠北小で世界遺産について学習することになったきっかけは、一冊の本でした。テレビで世界遺産に興味を持った5年生の松下朋矢君は、さらに詳しく知るために父親に世界遺産の本がほしいとお願いしました。すると買ってきてもらったのが、有名な世界遺産を写真つきでテーマ別にまとめた『世界遺産検定公式基礎ガイド』(NPO法人世界遺産アカデミー監修/毎日コミュニケーションズ刊)でした。松下君はこの本を学校に持っていきみんなに見せたところ、多くの同級生も興味を持ち、5年生の総合学習の授業の一環で、世界遺産について学ぶことになったのです。この日はグループごとに学習した内容を模造紙に大きく書き、同級生全員の前で発表しました。

詳しく知って、大きな驚き

世界遺産を学ぶことに決めた子たちは、3つのグループに分かれてそれぞれのテーマに取り組みました。松下君も参加した男子5人の「ナスカの地上絵グループ」では、ペルーの文化遺産「ナスカの地上絵」を校庭に描いたことを発表しました。ナスカの地上絵についてはみんなが知っていて、それを自分たちでも作りたいと考えました。しかし本やインターネットで調べたところ、同じ方法は難しいことがわかり、自分たちのオリジナルのやり方で描くことにしたのです。まず校庭にメジャーで測って印を付け、それに合わせてスコップで掘り、線をはっきり見せるために水をまいて土を黒くし、地上絵を再現しました。

大石真由佳さんら女子5人の「建物グループ」は、有名な文化遺産の建造物から「タージ・マハル」、「原爆ドーム」、「金閣寺」について調べたことを発表しました。なかでも、亡くなった妻のためにタージ・マハルを建造したインドの皇帝シャー・ジャハーンの愛のエピソードは、とても心に残ったようです。諸田怜菜さんは「将来タージ・マハルはもちろん、パリのエッフェル塔に行ってみたい」と話しました。

鈴木夢加さんら女子2人、男子1人の「ピラミッドグループ」は、エジプトの「ピラミッド」の多くの謎について紹介したテレビを見て、もっと詳しく知りたいと思い、特にその構造を調べることにしました。紙粘土で小さな模型を作り、また本を読んで、当時の技術が思った以上に進んでいたことを知りました。大畑慶祐君は「今から4,000年も前に、はかりを使ったり、てこの原理で石を持ち上げて運んでいたなんて」と驚いた様子でした。グループでは今後、ミイラについても調べたいそうです。

世界遺産アカデミーによる特別講座も

今回の学習会のもうひとつの目玉は、世界遺産アカデミーの主任研究員、目黒正武さんによる「世界遺産ってなに?」講座です。グループのメンバーは世界遺産について調べる過程で、もっと詳しく知りたいことが出てきて、『世界遺産検定公式基礎ガイド』を監修している世界遺産アカデミーに質問をまとめた手紙を書きました。世界遺産アカデミーでは手紙で回答することもできましたが、小学生の熱意に感動し、目黒さんが東京から出向いて直接質問に答え、そして世界遺産の基礎についてみんなに解説することになったのです。世界遺産アカデミーが行う出張講座は、これまでは大学がほとんどで、小学校では初めてのことです。

目黒さんは、世界遺産はいくつあるか、どうやって決まるのか、といった内容をわかりやすく説明し、また「インドのマハーバリプラムの寺院はどうやって作ったのか」、「オーストラリアのロード・ハウ群島の奇岩はどのように生まれたのか」など、手紙にあった子どもたちからの質問に丁寧に答えました。世界遺産について調べたメンバーはもちろん、その他の子たちも、1時間の話を熱心に聞き、内容をノートに書き留めていました。終わった後も「目黒さんの話を忘れないうちに模造紙にまとめたい」と張り切る子もいました。

異文化理解と世界遺産

小笠北小の子どもたちが海外の世界遺産に興味を持った背景には、全校児童の約1割がブラジルやペルー、フィリピンなどの外国籍で、それ以外にも両親のどちらかに外国出身者を持つ児童も多いという事情があるかもしれません。

総合学習を指導した川村浩史先生は「外国籍の子どもたちは日本の生活になかなか溶け込めず、外国籍の子ども同士で固まってしまうことも少なくない。国籍や人種に関係なく仲良くなって、お互いの文化について知ってほしかった」と話します。海外の世界遺産について調べることは、異なる文化について子どもたちが学ぶ第一歩となったのです。「建物グループ」の張亦佳(ちょう・えきか)さんは中国の出身ですが、「今度中国に行ったら、万里の長城など中国の世界遺産に行って、見てきたことをみんなに紹介したい」と話してくれました。

世界遺産アカデミーが主催する「世界遺産検定」では、小中学生を主な対象にした「4級」を2010年からスタートさせる予定です。検定を受けることで、世界遺産について知るだけでなく、多文化が共生する世界の現状についても理解を深めることが期待されています。

「世界遺産はその遺産を保有する国だけのものではなく、人類共通の宝物であり、次の世代に引き継ぐために国境を越えて保全しようという考えで誕生した。その意義と、異文化を理解することの大切さを、今後も多くの小学生に伝えられたら」
小笠北小の子どもたちの熱心さに触れた目黒さんがこう語るように、世界遺産アカデミーでは、世界遺産への理解を深める活動にさらに力を入れていきます。