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■ 研究員ブログ95■ イコモスの登録勧告!世界で初めての世界遺産へ!……ル・コルビュジエの建築作品

2016.05.18

イコモスから「ル・コルビュジエの建築作品」に登録勧告が出ましたね!
3度目の挑戦だったので、ほっとしました。

フランスやスイス、アルゼンチン、インド、ドイツ、ベルギー、日本の7カ国に点在する
建築家ル・コルビュジエが設計した17資産で、
日本からは東京の上野にある「国立西洋美術館本館」が含まれています。

「ル・コルビュジエの建築作品」の特徴は、
国境をまたいだ「トランス・バウンダリー・サイト」と呼ばれる方法で推薦されている点です。
7月の世界遺産委員会で登録されれば、
日本では初めてのトランス・バウンダリー・サイトとなります。

昨年の『明治日本の産業革命遺産』で注目されたのが、
同じような特徴をもつ複数の遺産を「ひとつの世界遺産」として登録する
「シリアル・ノミネーション」という方法でした。

今回の「ル・コルビュジエの建築作品」は、
そうした「シリアル・ノミネーション」としてまとめられた作品群が
国境を越えているため「トランス・バウンダリー・サイト」となります。

さらに、「ル・コルビュジエの建築作品」が世界的に注目されているのは、
国境をまたいでいるだけでなく、
大陸すらまたいでいる「トランス・コンチネンタル・サイト」である、という点です。

「トランス・コンチネンタル・サイト」は、世界で初めての遺産になります。

複数の国にまたがる遺産を登録する場合、
できるかぎり関係締約国が共同管理機関などを設立して、
遺産全体の管理や監督をすることが求められています。

これが隣国同士などだった場合、
法体制や文化的背景が似ていることもあり、
共同管理が比較的しやすいのですが、
大陸をまたいで世界中に点在しているような今回のケースの場合は、
共同管理が難しいという課題があります。

また、昨年の『明治日本の産業革命遺産』の時にも話題になりましたが、
シリアル・ノミネーションの場合は、
遺産同士をつなぐ「物語」が重視されることになり、
個別の資産がそれぞれ勝手に守っていれば、
世界遺産としての「顕著な普遍的価値」が守られるというものでもありません。

世界中に点在する建築作品を、ひとりの建築家の業績で結びつける物語は、
かなりしっかりと人々に伝える努力をしなければ、
「世界遺産としての価値」は伝わりにくい気もします。

今回登録勧告が出たのも、構成資産が整理され、
前回外れていたインドのチャンディーガルが含まれることで、
ル・コルビュジエの業績を穴がなく代表するものになっていたからだと思います。

上野の国立西洋美術館も「ル・コルビュジエの建築作品」の中に
どのように位置づけられるものなのか、
「17資産のなかのひとつ」として重要なピースであったと、
そういう風に見ていきたいですね。

「国立西洋美術館よりも愛知県庁庁舎の方が世界遺産にふさわしい!」
なんてならないように……愛知県出身としては県庁舎は大好きなのですが。

次回はル・コルビュジエの建築について書きたいと思います。
今回は速報でした。

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