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◆世界遺産クラブ通信◆「日光の社寺修復現場見学会」報告-2

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(2014-12-18更新)

【日光の社寺修復現場見学会】
いよいよ「平成の大修理」の現場へ

佐藤主任の説明を聞く11月20日12時50分、五重塔前。(財)日光社寺文化財保存会漆塗専門技術主任・佐藤則武氏と落ち合い、現場へと向かう。海外からも多くの来訪者を集める日光東照宮は、文字通り日本が世界に誇る文化遺産。いよいよこれから、その遺産継承の舞台裏を目の当たりにするのだ。
東照宮では、昭和25年~61年に「昭和の大修理」が行われた。平成19年4月からは、「御祭神徳川家康公400年式年祭(平成28年/2016年)記念事業」の一部として、「平成の大修理」が始まっている。平成36年(2024年)まで18年かけての大修理。その第一期第一次事業では、東西透塀(国宝)、正面唐門(国宝)、本殿・石の間・拝殿(国宝)・簓子塀(附一重文)、神輿舎(重文)などを対象とし、主に漆塗、彩色、錺金具の更新が行われる。(写真右:現場で説明する佐藤主任

受け継がれる伝統と技、複雑な工程に脱帽

狭い修復現場漆塗りによる修理作業中の現場は、一般拝観客と隔離されており、狭いスペースに透塀が並んでいる。しかも、漆が乾いていないと衣服に付いてしまうので、慎重な足取りで進む。高さ約150cmの透塀には、色鮮やかな花鳥などが彫刻された格子状の窓が付いている。伝統に則った漆塗りの作業工程は、なんと数十段階にも分かれており、今回見学できたのは下記の工程である。(写真左:透塀修復現場)

「布着せ」と「布揃え」
使用されている部材の木割れを防ぐために、麻布を着せる下地造成の工程の一部。私たちには「着せる」というより「貼り付け」ているように見えるのだが・・・。「布着せ」の後、余分な麻布を切り揃えるのが「布揃え」で、黒 本直仕様の13番目と14番目の工程のこと。
「地の粉下地付け」
これも下地造成の工程のひとつで、地の粉下地を箆(ヘラ)で塗りつけること。かなり厚く塗るので、下に垂れないように塗るのが難しそう。
「黒中塗1回目」
全37工程の説明に聞き入る仕上げ層の最初の工程で、黒中漆を原液で箆配りし、漆刷毛で均すというもの。「黒中塗」は2回あり、最後に「黒上塗り」で仕上げる。漆塗りとは、生漆・地の粉・砥の粉などを混合した下地材を、『塗っては研ぎ出す』工程を何度も繰り返し、また「布着せ」などで下地を平滑に造成した後、最終的には中塗漆や上塗漆によって仕上げることをいう。
「本直塗」
古い塗装の叩き落としから始まり、前述の布着せなど、37工程に及ぶ最も仕様の高い直しのこと。修理現場で全37工程がひと目でわかるサンプルの「黒 本直仕様 工程手板」を見せてもらう。一口に「漆塗り」と言っても大変複雑な作業の積み重ねであることに恐れ入る。(写真右:全37工程手板の説明)

漆にまつわる基礎知識、驚きに満ちた漆の世界

漆塗りによる修復が中心だった今回の見学では、漆全般について多くのことを学んだ。素材、精製、色、道具、乾燥方法など、まさに”目からウロコ”の連続。以下に、復習しつつ整理してみた。
<産地>: 中国産と日本産:日本産の漆不足が深刻化し、安価な中国産が大量入荷するようになった昭和50年代、日光社寺においても、中国産80%日本産20%で修理を敢行。30年経過後に劣化状態を比較した結果、日本産100%で修理した建造物の方がより高い耐久性を示したため、平成19年からの修理は日本産の浄法寺漆を100%採用。 浄法寺漆は、岩手県北部の浄法寺地域(現二戸市)で産出する漆で、現在、国・県・市の保護下で漆を生産している。こうした漆を使うことは、漆生産の活性化や漆の確保にも繋がり、建造物の保護、日本産漆を使う技術者の育成、漆精製技術の伝承にも役立っている。
<精製>: 漆の木から採取した漆のごみなどを除去したものを「生漆(きうるし)」という。この時点では乳白色だが、ゆっくり水分を蒸発させながら攪拌していくと、半透明の油状態になり、肉厚に塗ることも可能な「漆」となる。これにさらに様々な鉱物性顔料を混ぜて、色漆ができる。
<仕上げ色>: 現在、日光の社寺で用いられている仕上げ色の種類は本朱弁柄弁柄朱青漆金箔摺漆の7色で、それぞれに特徴と主な使用箇所が異なる。
黒漆・・・漆を精製段階で鉄分と反応させて作る。「漆黒」といわれるように、漆を代表する高貴な色で、特に黒蝋色漆の仕立て色は美しく、他の塗料では表せない。主に、本殿などの主要部分に多く用いられる。
本朱漆・・・朱合漆という透漆の1種類に水銀朱を練り込んで作る。赤色系の高貴な色で、本殿、拝殿に次ぐ重要な場所に多く用いられる。
弁柄漆・・・弁柄を朱合漆に練り込んで作る。社寺の塗装には欠かせない基本色で、使用箇所の特定はなく、全般にわたる。
弁柄朱漆・・・本朱と弁柄を朱合漆に練り込んで作る。近年の修理では、「神橋」に用いられている。
青漆・・・酸化クロムを朱合漆に練り込んで作る。塗った後いったん黒くなるが、仕上がりは緑色になる。「連子子(れんじこ)」や格子などが、主な塗装場所。
金箔・・・漆塗りの金箔押しは、弁柄箔下漆を塗り、蝋瀬漆(ろせうるし)を金箔の接着剤として摺り込み、金箔を押す。金箔の厚さはなんと1万分の1ミリ!。さらに長持ちさせるには1万分の2ミリにするという。日光では、ほとんどの建物に使用。
摺漆・・木地に生漆を摺り込み、艶とともに木目の見える仕上がり。
<乾燥>: 漆を乾かすのには水分が必要であるという。いったいどういうことか。漆が乾くということは、湿気を与えられることで生じる水分の蒸発により、漆が多量の酸素を吸入し、その酸化作用によって、液体から固体に変わり硬化するということである。したがって、同じ「乾く」といっても、日にあてて水分を蒸発させて乾かす洗濯物の乾きとは全く異なる。一般的に夏期は乾きが早く、冬期は遅いが、年間で言うと、梅雨期間中が一番早くて20~30分で乾き、冬は一晩かかる。気温も考慮しなければならない。摂氏0~4度以下になると漆の乾燥は止まり、温度が徐々に上がるにつれて、漆はだんだん乾くようになる。逆に、摂氏40度以上になると、次第に乾かなくなり、摂氏80度を超えるとまた乾く。漆器を作る場合、部屋の温度や湿度は調整してあるが、屋外にある建造物ではコントロールできない。今でも毎日、温度と湿度、および風の強弱までも考慮して乾燥にあたるのだが、温度計・湿度計などの計器だけで自動的に決められるものではなく、最終的には未だに「職人の経験と勘」が頼り。そしてこの「経験」をいかに後継者に伝えていくかが、大きな課題なのである。
<道具>
○箆(へら)
箆は漆の下地を作ったり、塗ったり、漆を調合する道具で、材質は檜。通常、使う人自身が、使用目的に応じた形の箆を作るらしく、 また、箆使い上達のためには、箆の作り方が肝要となるそうで、形状、丸箆の孤、角度、大きさ、腰の強弱、肉厚の削り加減などを考慮して作らねばならないとのこと。近年、良い木が少なく、江戸時代に使用していた箆の方が上質であったという。
○刷毛
漆を塗る刷毛。これも手作りで、毛を束にし、細長い平らの板で挟んであり、毛質はかなり固め。刷毛が擦り減ると、鉛筆を削るように削り出して使う。余分な脂分が付着しておらず、しっかりとして固さもある海女さんの髪の毛が最適とのことだが、最近は、中国からの輸入に頼っている。 (写真下:箆と刷毛)

作業する職人さん

箆

刷毛
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というわけで、今回はここまで。漆塗りって奥深いでしょう?
次回は、引き続き東照宮の「石の間」床張り替えと、二荒山神社の補修についてアップします。

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